| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-176 (Poster presentation)
近年、植物と送粉者の送粉共生系に影響を与える多様な微生物が注目されている。微生物は植物と送粉者の共生関係を利用して伝播し、その特性に応じて正または負の影響を与える。微生物の影響を受けた植物と送粉者は、相利共生による共生相手への直接的な影響に加え、植物と送粉者の微生物を介した共生相手への間接的な影響も与える。そのため、微生物が植物と送粉者に負の影響を与える場合、植物と送粉者は微生物を介し間接的に負の影響を及ぼし合うことになる。さらに、微生物を介した植物と送粉者間の間接的な負の影響が植物と送粉者間の正の影響を上回ると、植物と送粉者の真の種間関係は寄生的または敵対的関係になる可能性がある。また、植物と送粉者の真の種間関係が相利共生でも、微生物の植物と送粉者の個体数への影響は変化しうる。本研究では、植物と送粉者の間を伝播する微生物を組み込んだ数理モデルを開発し、微生物が植物と送粉者の種間関係と個体数に与える影響を解析した。微生物が定着した送粉共生系では、多くの場合、植物と送粉者の関係は相利共生となり、寄生的または敵対的関係になるのは稀であることが分かった。これは、植物と送粉者の関係を変化させる微生物が植物と送粉者の個体数を減少させることで、感染機会が減少し、定着しづらくなるためと考えられる。関係を変化させる微生物が定着するには、感染率や相利共生の利益、微生物の植物と送粉者の死亡率への影響が重要であることが分かった。次に、植物と送粉者の種間関係が相利共生である場合、微生物が植物と送粉者の個体数に与える影響の正負は同じであることが多く、正負の異なる影響が生じることは少ないことが分かった。本研究の結果は、送粉共生系を利用して伝播する微生物が植物と送粉者の相利共生関係を寄生的あるいは敵対的関係に変化させることは稀であり、植物と送粉者の個体数に与える影響の正負は同じであることを示唆している。