| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-177 (Poster presentation)
ユリ科の一回繁殖型多年草であるウバユリは日本国内に広く生育する。筆者は同生育地において、外花被外側の基部にある赤い斑紋に個体差があることを発見した。しかしその報告事例はなく生態学的意義も不明である。昆虫は色彩を識別して訪花することが知られていることから、ウバユリの斑紋は昆虫に対する誘引要素になっており、他殖成功率(以下、他殖率)に影響を及ぼすと考え、それを検証するため以下の調査を行った。
調査地である岩手県内において、昆虫の訪花頻度と滞在時間をカメラ撮影によって、他殖率を繁殖実験によって調べ、斑紋の有無で有意な個体間差が見られるか検証を行った。また斑紋の有無の割合には地域差もあると考え、全国的に情報提供を呼びかけ主に生態学研究者メーリングリスト(Jeconet)から写真を含む情報を得た。
調査の結果、訪花頻度は斑紋がない方が高く、滞在時間に差は見られなかった。一方、自動自家受粉処理では斑紋の有無で有意差が見られなかったが、無処理と他家受粉処理では斑紋がある方が蒴果乾重量が大きく、斑紋は他殖率に正の影響を与えることを示唆した。また、斑紋個体は草丈が高く花数が多かった。全国的に収集された画像データから、斑紋個体は北海道を中心に、本州では主に日本海側で見られた。また斑紋が濃いほど個体の花数も多くなる傾向が見られた。
訪花頻度と他殖率の結果は、斑紋の効果が一見矛盾するものとなったが、二つの可能性が考えられる。一つは斑紋は昆虫に対する広告効果ではなく、訪花後の送粉・受粉効率に影響し種子繁殖に正の影響を与えた可能性。もう一つは斑紋個体の生育環境が斑紋のない個体よりも良好であったためより多くの光合成産物を結実に投入できた可能性である。また、斑紋の有無と個体サイズには密接な関係があると示唆されたことから、ウバユリより大型とされているオオウバユリの特徴として、今後斑紋も付加できる可能性がある。