| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-178 (Poster presentation)
虫こぶとは、植物が昆虫の産卵や摂食といった刺激を受けることにより、植物細胞・組織の異常増殖や肥大が起こり、形成される異形の組織である。中に産み付けられた幼虫が周辺組織を摂食し成長するのに応じて虫こぶサイズも増大する。
虫こぶ形成昆虫であるマダラケシツブゾウムシ(以下マダラ)は、アメリカネナシカズラ(以下アメリカネナシ)に虫こぶを形成し、その中で生育し羽化する。一方、アメリカネナシの近縁種であるハマネナシカズラ(以下ハマネナシ)では、虫こぶの発達が途中で停止することを発見した。二種の植物の応答の差異がマダラの宿主/非宿主を分ける要因であると仮説を立て、本研究では、アメリカネナシとハマネナシの虫こぶ発達を比較することにより、虫こぶ発達を抑制する因子の探索を試みた。
アメリカネナシとハマネナシにマダラ成虫を接種・産卵させ、虫こぶサイズを計測したところ、アメリカネナシでは少なくとも産卵後7日間は虫こぶが肥大し続けたのに対し、ハマネナシでは3-4日で肥大が停止した。肥大停止のタイミングは産み付けられた卵の孵化時期とほぼ一致していた。また、アメリカネナシでは産卵された数の5割以上が羽化した一方で、ハマネナシでは全個体が成虫になる前に死亡した。このことから、ハマネナシでは産卵により虫こぶ形成の初期段階までは進行するものの、幼虫による虫こぶの肥大化は抑制されることが示唆された。この差異が生じる要因を、虫こぶの薄切切片作成による組織学的な比較、および両種の虫こぶにおける経時的な植物ホルモン定量による生理学的な比較解析により考察した。