| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-180 (Poster presentation)
ハナバチ類をはじめとする野生送粉者は,世界の主要作物の70%を送粉しており,貢献度がきわめて高い.特に,野生ハナバチ類は他の分類群にくらべ,送粉効率が高く生態系サービスを維持する上で欠かせない.しかし,野生ハナバチ類の個体数は,近年,減少の一途をたどる.その一因に,ネオニコチノイド系殺虫剤による環境汚染が懸念されている.野生ハナバチ類の保全には毒性データの蓄積が欠かせない.現行のリスク評価は,養蜂として主流のセイヨウミツバチと海外の野生ハナバチ類の毒性データをもとにおこなわれ,感受性差を考慮して基準値が設定されている.しかし,そのリスク評価には日本の野生ハナバチ類は含まれておらず,海外の野生ハナバチ類基準値を単純に外挿することへの懸念が残る.上記課題を検証すべく,日本の農業現場で主流の殺虫剤(ジノテフラン)を用いて野生ハナバチ類9種とセイヨウミツバチの感受性試験(急性毒性)を実施した.その結果,日本の野生ハナバチ類の大部分を保全できるとされる濃度(LC10)は,欧州の基準値(2.26 ppm)を上回っており,影響は低いと推定された.ただし,同基準値はあくまで,生死のみで判断される.その場合,仮に死亡しなくても送粉サービスの低下(亜致死影響)につながる可能性は否定できない.そこで,訪花行動を観察したところ,正常に採餌できずに歩き回り続ける行動が確認された.基準値以下の濃度でも亜致死影響がおこるのかを検証するため,野生ハナバチ類5種の花上での行動(歩行量)を濃度ごとに比較した.その結果,全種で基準値未満の濃度でも歩行量が有意に増加した.これらの結果は,野生ハナバチに対するネオニコチノイド剤のリスクは,致死影響基準のみでは見落とされる可能性が高いことを示唆している.今後は,致死影響だけでなく長期的なハチの健全性や行動への影響も評価に入れるべきだろう.