| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-183 (Poster presentation)
植食性昆虫の中には食草を加工して巣を作る種類が知られており、その行動の成否は主に植物の形態的な形質に依存する。本研究の対象であるアカタテハVanessa indicaの幼虫はカラムシBoehmeria niveaを主な食草とし、葉脈を連続的に傷つける「トレンチ行動」によって葉を物理的に折りたたみやすくした後に、葉をふたつに折りたたんだ巣を形成する。興味深いことに、室戸岬に生息する集団では、葉が分厚くなりやすい海岸植物であるニオウヤブマオBoehmeria holosericeaを利用する。したがって、アカタテハはニオウヤブマオでは葉をうまく折りたためずに巣を作りにくい可能性がある。そこで本研究では、植物の形態的・力学的形質と巣の形状をカラムシとニオウヤブマオで比較した。ニオウヤブマオはカラムシよりも、葉が厚く、葉脈が太かった。トレンチ行動を再現するために人為的に主脈を傷つけても、ニオウヤブマオのほうがカラムシよりも葉を折りたたむのに必要な力が大きかった。野外で観察された巣を「完全に折りたたまれている巣」・「糸で天井を張っている巣」・「複数の葉を利用している巣」・「葉を部分的に利用している巣」に分類すると、ニオウヤブマオではカラムシで作られるような完全に折りたたまれている巣が少なく、糸で天井を張っている巣が多かった。葉を折りたたむのに必要な力が大きいほど完全に折りたたまれている巣は少なくなる傾向があった。以上の結果から、アカタテハはニオウヤブマオでは硬い葉を折りたたむことができないため、カラムシとは異なる形状の巣を形成していると考えられる。