| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-184 (Poster presentation)
自然界の花は、近隣によく似た色の花が咲いている場合、広告サイズが増してより多くのポリネーターを誘引できることがあり、この現象は促進とよばれる。さらに、マルハナバチなど学習能力が高いポリネーターは、過去におぼえた色の花にこだわる傾向があるため、たとえ開花期が異なる種間でも、先に咲いた花と似た色をもつ花が促進効果を享受する可能性がある。しかし、ハチが「似た色」をどのように認識するのかについては、ほとんどわかっていない。ハチの弁別学習における正答率は、3つの色受容体の感度に基づく色空間(color hexagon)上の色距離と共に増加することが知られる。これを踏まえれば、ハチは過去におぼえた花と色距離が近い花に、より強く誘引される可能性がある。本研究ではこの仮説を検証するため、クロマルハナバチと人工花を用いた室内実験をおこなった。まず、あらかじめ黄色または青色の花をおぼえさせたハチに、続いてレモン色と空色の花パッチを提示する実験をおこなったところ、予想通り、黄色をおぼえたハチはレモン色に、青色をおぼえたハチでは空色に頻繁に切り替えた。この結果は、ハチが過去に覚えた花との色距離が近い花を好むという仮説を支持しているように見える。ところが、あらかじめ黄色または赤色の花をおぼえさせたハチに、これらの花との色距離が大きく異なり、かつ互いに十分に離れているものの、いずれも赤系である2種類のオレンジ色の花を提示したところ、過去におぼえた花との色距離は関係なく、ハチはどちらの色にもほぼ均等に訪れた。この結果は、ハチにとっての「似た色」の認識は、色の弁別に用いられる色距離のような連続的知覚ではなく、色相の類似性といったカテゴリカルな知覚に支配されているという、予想外の可能性を示唆している。種間相互作用が植物の繁殖に及ぼす影響を考える上で看過できないこの現象について、今後さらに詳しく調べる予定である。