| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-186 (Poster presentation)
動物被食散布によって散布される種子は、散布者の糞に内包されて散布されるという特徴を持つ。糞は、種子の発芽や成長に影響することが知られているおり、その要因として、糞の養分や保水性に着目されてきた。一方で、糞内には、多様な微生物も存在している。近年の研究により、植物周辺の微生物は植物の生存や成長に様々な影響を与えることが明らかにされているが、動物被食散布において、糞内の微生物が種子の発芽や実生の成長に与える影響は明らかにされていない。本研究では、糞内の微生物が種子の発芽や実生の成長に与える影響を明らかにするため、①微生物の有無を操作した糞を設置した種子の播種実験、②糞懸濁液を接種した種子の播種実験を実施した。さらに、①の実験を対象に、実験に使用した糞、種子発芽時の土、発芽から約3か月後の実生の根内の微生物をDNAメタバーコーディングにより明らかにすることで、発芽と成長に影響する微生物を推定した。2023年の11月に栃木県日光市の戦場ヶ原において、ズミの種子と、テンとタヌキの糞をそれぞれ採集した。水選と目視により充実種子と判断した種子を使用し、①では糞、あるいは、オートクレーブにより滅菌した糞と共に播種した。②では、蒸留水で調整した糞懸濁液と糞懸濁液をフィルター滅菌した滅菌懸濁液を播種した種子に接種した。その結果、ズミの種子は糞処理と糞懸濁液処理では他の処理区に比べて約15日早く発芽した。また、糞処理区の実生の樹高は、他の処理区に比べて約8%高かった。DNAメタバーコーディングの結果、土、根内ともに、処理間で微生物叢が異なっており、糞処理区の土に特徴的な微生物の中には、発芽速度に正の相関を示すものが複数存在した。このことから、糞の存在は特殊な土壌微生物環境を形成し、その結果、ズミの発芽速度が速まるものと考えられた。