| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-187 (Poster presentation)
開花数やパッチ間距離・花序間距離、局所的花序密度は送粉者にとって報酬量や移動コストの指標であり、それらのバランスによって送粉者の訪花行動が決まると考えられている。また、送粉者の植物への訪問回数は年変動することが知られている。本研究では、サイハイランとトラマルハナバチ女王の送粉系を対象に、パッチ間距離・パッチ内花序数・局所的花序密度・花序間距離・花序内開花数がトラマルハナバチ女王の訪問する花序選択に与える影響とその年変動を調査した。調査は2020年から2023年に金沢大学角間里山ゾーンで17パッチ、のべ167花序(2020年22花序、2021年48花序、2022年50花序、2023年46花序)を対象として行った。送粉者の花序選択に影響する説明変数として、最短パッチ間距離、パッチ内花序数、1.5m以内の花序数(局所的花序密度の指標)、最短花序間距離(花序間距離の指標)、花序内開花数を測定した。訪花行動はセンサーカメラを1花序に1台設置し、開花期間を通して観察した。4年間で撮影されたトラマルハナバチ女王の訪問は2020年12回、2021年358回、2022年321回、2023年86回の計777回だった。2020年と2023年の68花序のデータを訪問の少なかった年、2021年と2022年の98花序のデータを訪問の多かった年として、上記の説明変数が花序への訪問回数に与える影響を、一般化線形混合モデルで解析した。ランダム効果には、年と花序IDを設定し、確率分布はポアソン分布とした。その結果、訪問の多かった年では、花序内開花数(Est = 0.22, P < 0.01)と1.5m以内の花序数(Est = 0.20, P < 0.01)が正の影響を示した。一方で訪問の少なかった年では説明変数の有意な影響は検出されなかった。以上の結果より、送粉者の訪問が多い年は、報酬量の多い花序や周囲の花序数が多いサイハイラン花序が選択されやすいのに対し、訪問の少ない年では、サイハイランのパッチ間距離・花序間距離・開花数といったパラメータによらず、訪問する花序が選択されると示唆された。