| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-188 (Poster presentation)
コケ類(セン類、タイ類、ツノゴケ類)の世代交代は、配偶体を主体とし、胞子体は有性生殖の結果として、配偶体から寄生的に生じる。コケを専食する動物は、通常、その配偶体を餌としており、胞子体を専食する動物はこれまで知られていない。本研究では、セン類の胞子体を食べるハバチを初めて発見し、その分類学的位置と生活史を解明した。
本種の幼虫は夏から秋の間、本州の北端から中国地方にかけての広範囲に及ぶ5県6地点で発見された。幼虫は野生下及び飼育下でハイゴケ科を主としたセン類の胞子体の上で胞子を摂食している状態で発見され、その排泄物中の内容物からは胞子体由来の組織のみが観察された。飼育から得られた成虫の形態観察と、ミトコンドリアCOI遺伝子の部分配列情報に基づいて、本種の分類学的位置を検討した。その結果、本種はセン類の配偶体を食べるモリオコハバチと同属の未記載種であることが示唆された。また、分子系統解析からは、本種がモリオコハバチとは15%程度の差異をもつ1つのクレードを構成し、本種のクレード内では、産地間で遺伝構造の地理的な分化が認められた。
また、野外では、コハバチの幼虫の発生と同時期に、セン類の胞子体を食べるエダシャク亜科の未知種の幼虫が観察された。シャクガ類の形態と分子データから、シダ食が報告されている属の種と推定された。本研究は、コケの胞子体という利用可能性がきわめて限定された資源を主な餌とする動物の存在と、その資源を巡る種間関係の可能性を初めて明らかにした。