| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-189 (Poster presentation)
マルハナバチ類やクマバチ類といった昆虫類や鳥類の中には、一部の花に対して正当訪花(採餌にあたり雄蕊や雌蕊に接触)を行わず、花蜜のみを盗み出す盗蜜行動を行う種が存在する。近年、我が国では盗蜜行動を行う種として知られるタイワンタケクマバチが侵入し、分布を拡げつつある。本種の侵入は花粉媒介を妨げ、植物の繁殖成功に負の影響を与える可能性が懸念される。しかし、本種に限らずクマバチ類の盗蜜が植物の繁殖成功に与える影響の実態については、日本に在来のキムネクマバチを含めて議論が進んでいない。考えうる悪影響のひとつに、クマバチ類が盗蜜を行う際に花弁にあいた穴から、本来は正当訪花し得る送粉者が花蜜を盗み出す行動(二次盗蜜)を駆動する可能性が挙げられる。仮にクマバチ類の盗蜜によって二次盗蜜が駆動されると、植物にとって受粉・繁殖成功の機会がより減少し、適応度にまで影響がおよぶ可能性は否定できない。そこで、(1)タイワンタケクマバチとキムネクマバチで盗蜜する花に違いがあるか、(2)クマバチ類の盗蜜は野生送粉者による二次盗蜜を駆動するか、もしあるのなら、(3)植物の繁殖にどのような負の影響がもたらされるのかについて評価した。調査の結果、両種ともに花筒長が9 mm以上の植物(アベリアやサルビアなど)の花に対して盗蜜を行う傾向にあった。また、調査中に訪花が確認された送粉者は全部で14種であった。これらの種のなかで、クマバチ類の穿孔痕を利用して二次盗蜜を行ったのは約3-5mmの口吻を持つ種(アオスジハナバチ,ハキリバチなど)であった。さらに、クマバチ類による盗蜜痕のあるアベリアやサルビアの柱頭を採取し、付着している花粉数を計数したところ、花粉量は有意に減少していた。これにより、クマバチ類の盗蜜は中程度の口吻をもつ送粉者の二次盗蜜を駆動し、植物の繁殖に悪影響を与える可能性が示唆された。