| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-190  (Poster presentation)

視覚連合学習実験系の確立によるホソヒラタアブの色覚特性の解明【O】
Color vision of the hoverfly Episyrphus balteatus revealed by a newly developed visual associative learning assay【O】

*関洋一(東京薬科大学), 平社龍樹(東京薬科大学), 山内淳司(東京薬科大学), 木下充代(総合研究大学院大学)
*Yoichi SEKI(Tokyo Univ. Pharm. Life Sci.), Tatsuki HIRAKOSO(Tokyo Univ. Pharm. Life Sci.), Junji YAMAUCHI(Tokyo Univ. Pharm. Life Sci.), Michiyo KINOSHITA(SOKENDAI)

ハエ目のハナアブ科の昆虫は、ハナバチに次いで重要な送粉昆虫群として知られている。近年、特にヒラタアブ亜科のグループは、成虫が送粉昆虫として、幼虫が微小害虫の天敵として機能し、さらに大量の個体が季節的な渡りを行うことが報告されたことから、広範囲にわたる送粉と生物防除の二重の生態系サービス提供者として注目されている。これまで、ヒラタアブ亜科の昆虫に関する野外での生態観察は多く報告されているが、室内の制御された条件下での行動観察はほとんど行われていない。今回、我々はヒラタアブ亜科の汎存種であるホソヒラタアブ(Episyrphus balteatus)をモデルに、室内で野外の花選択行動を再現することを目的として、連合学習を用いた行動実験系を確立した。まず、青と黄色の人工花を用いた2色選択テストでは、ハチミツ水または砂糖水と連合させた色を高い正答率で識別できることを示した。また、匂いの影響を排除した実験において、これらの選択が視覚情報に基づくものであることを示した。次に、ホソヒラタアブの色覚特性を調べることを目的に、青、緑、黄、赤の4色選択テストおよび灰色の階調の中から色を選択するフォン・フリッシュのグレーカード実験を行った。その結果、青、黄、赤は他の色および灰色の階調から学習した色を選択できたのに対し、緑は他の色に比べて学習識別能が低下した。これらの結果から、ホソヒラタアブの色覚は、背景の葉の色よりも多様な花の色の識別に適応している可能性が示唆される。また、本実験で確立した連合学習による選択行動は、同種の花を連続的に訪れる定花性行動との関連が示唆される。ホソヒラタアブにおいて色に対する高い学習識別能力が見られたことから、色が定花性行動における重要な因子である可能性が推察される。


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