| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-193 (Poster presentation)
植食性昆虫の摂食傾向は、従来、種単位でジェネラリストとスペシャリストに二分する見方が主流であった。しかし実際は、この2つは連続的な性質であり、集団間や個体間などのさまざまなレベルで変異が生じうる。このことは近年ようやく認識されたため、その機構に関する実証的解明はほとんど進んでいない。過去の理論研究においては、餌資源の量や種内競争の強さが摂食特異性の決定要因となることが示唆されているが、これらが実際にどのように摂食特異性の違いを生み出すのか実証した例はほとんどない。
ハンノキハムシ(Agelastica coerulea、以下ハムシ)は、カバノキ科ハンノキ類を主要な寄主とする。しかし、同科カンバ類や、ヤナギ科、バラ科上での観察記録も存在し、ハムシは寄主特殊化に関して種内変異を持つ可能性がある。また、ハン ノキ類は同種が近隣に生育しやすい特性があり、極端に均一な林分を形成する一方で、多様な樹種に囲まれる場合もある。したがって、ハムシ局所集団が直面する林分構造には、場所によって不均一度に大きな違いがある。さらに、ハムシはハンノキ類の樹上でしばしば大発生して強い被食圧をもたらすため、強い種内競争が発生しやすい。このことから、ハムシ は、局所的な林分構造の不均一度に依存した餌資源量の差や種内競争の影響により、局所集団間で異なる摂食特殊性を発達させている可能性がある。
本研究では、ハムシの摂食特殊性の集団間変異の実態を明らかにし、その変異が生息環境での局所的林分構造の均一度に依存するという仮説を検証することを目的とした。ハムシはハンノキ 類のみならず、カンバ類、ヤナギ類、サクラ 類さえ利用できることが判明した。各樹種に対する幼虫の発育期間と生残率は集団間で有意に異なり、寄主特殊化度に集団間変異が検出された。さらに、ハムシ集団は、生息環境の林分構造が均一であるほど広食性となり、不均一であるほど狭食性となることが分かった。