| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-194  (Poster presentation)

都市シロツメクサの防御物質喪失による送粉者の形質変化:花蜜-腸内菌叢と訪花行動【A】【O】
A loss of defensive compounds in urban white clover influences pollinator's traits: nectar-gut bacterial community structure and preferential behavior【A】【O】

*松井悠眞(北大院環境科学院), 石黒智基(北大院環境科学院), 内海俊介(北大院地環研)
*Yuma MATSUI(ES, Hokkaido Univ.), Tomoki ISHIGURO(ES, Hokkaido Univ.), Shunsuke UTSUMI(EES, Hokkaido Univ.)

 近年,都市化がもたらす生物の進化(以下,都市進化)の様々な知見が急速に蓄積されている.都市進化による形質の変化は,他種との生物間相互作用を改変し,ひいては生態系サービスにも影響を与えるかもしれない.しかし,そのような都市進化の波及効果について検証した研究はない.
 そこで本研究は,重要な生態系サービスを担うハナバチに着目し,植物の都市進化がハナバチの訪花に関連する形質に与える影響を明らかにすることを目的とした.特に,1)ハナバチの訪花に作用する形態形質に都市化が与える影響,2)シロツメクサ(以下,シロツメ)の都市進化がハナバチの訪花選好行動に与える影響,3)シロツメの都市進化がハナバチの選好行動に関連する腸内細菌に与える影響,について明らかにする.シロツメはハナバチの重要な蜜源であり,世界中で並行的に都市進化し,都市で被食防衛に関連するシアン配糖体(以下,配糖体)を喪失している.当物質は有毒で花蜜にも含まれ,喪失が訪花選好行動に何らかの影響を与える可能性を考えた.
 札幌近郊の都市・郊外から,シロツメに訪花するハナバチを捕獲し,以下の形態計測と実験を行った.形態について,胸部幅と翅長を計測した.次に,配糖体含有・非含有蜜に対する選好行動実験を行った.さらに,都市・郊外から配糖体含有・非含有のシロツメ花蜜,及びハナバチを収集し,花蜜内細菌叢とハナバチ腸内細菌叢をメタバーコーディングによって調べた.
 都市・郊外間で形態に有意な違いは見られなかった.行動実験では,郊外由来は,配糖体含有・非含有に対する選好性を示さなかったのに対し,都市由来は配糖体の含有蜜を有意に選好した.さらに都市・郊外のシロツメ花蜜の細菌叢とハナバチの腸内細菌叢には,それぞれ特徴的な違いが検出された.以上より,シロツメの都市進化が間接的な影響をハナバチの行動形質に与え,そこには細菌叢の変化が介在していることが示唆された.


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