| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-195 (Poster presentation)
植食性昆虫による産卵場所の選択は,種の存続や繁栄に直結するため,次世代を残すうえで重要な行動のひとつである.これらの種は幼虫期の食草を産卵場所として選択することが多い.その際,視覚や嗅覚,味覚などの情報を用いることが一般的である.しかし,産卵場所選択におけるこれら感覚器官の機能の全容は未だ解明されたとは言い難い.そもそも,植物の検知から産卵までの産卵選択の過程で,昆虫と植物との距離が変化することで利用する器官が変化したり,複数の感覚器官が組み合わさって機能する可能性も否定できない.
鱗翅目昆虫はこれまで,嗅覚と味覚情報を用いて,植物に含まれる化学物質を検知することが産卵場所の決定に重要であるとされてきた.しかし,近年の研究から,これらの種でも産卵選択時に視覚情報を利用する可能性が指摘されるようになった.そのため,鱗翅目昆虫における産卵選択の全容解明には,化学物質の検知とあわせて,視覚による検知感度やその仕組みについても詳細に評価する必要がある.しかし,当該研究はこれまで,複数の感覚器官を個別に評価してきたものが多く,複数の器官を統合して評価した事例はほとんどない.そこで,植食性昆虫,特に鱗翅目昆虫における産卵選択行動やそのメカニズムの全容を明らかにすべく,宿主植物の検知や着地までの過程に着目して,視覚と嗅覚情報が果たす役割を評価した.その際,食草の種数が少ないため,より厳密な産卵場所選択が必要とされる可能性があるスペシャリスト植食者に注目した.ジャコウアゲハはウマノスズクサ科植物のみを食草や産卵場所として利用するため,本研究に適したモデル生物であると考えられる.本発表では,本種の産卵場所選択時における,両感覚器官の植物との距離に応じた役割の解明にくわえ,視覚情報の重要性を詳細検討すべく,産卵場所として好まれるウマノスズクサ株の形態的特徴についても探索した結果を報告する.