| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-196  (Poster presentation)

影が薄いポリネーター?:コアオハナムグリによるソバへの訪花行動【A】【O】
A potential pollinator? : Flower-visiting behavior of Gametis jucunda to buckwheat【A】【O】

*伊藤孝輔(筑波大学・環境), 永野裕大(東京大学・農), 横井智之(筑波大学・環境), 宮下直(東京大学・農)
*Kosuke ITO(University of Tsukuba), Yuta NAGANO(The University of Tokyo), Tomoyuki YOKOI(University of Tsukuba), Tadashi MIYASHITA(The University of Tokyo)

 植物に訪花する昆虫のうち,送受粉を担うものはポリネーターと呼ばれ,8割以上の顕花植物の結実に関与するとされる.ポリネーターを必要とする自家不和合性の植物であるソバ, Fagopyrum esculentum Moench, では,優占して訪花するハチ目が結実を支えていると考えられる.一方,ソバ産地の一つである長野県飯島町における調査では,訪花昆虫のうちコアオハナムグリ(以下,コアオ), Gametis jucunda, の割合が高く,特に秋ソバでは訪花昆虫全体の40%を占めることが示されている.このため,コアオがソバの結実に寄与している可能性が示唆される.そこで,コアオがポリネーターとしての機能性を明らかにするために,2023年の6月から10月にかけて長野県飯島町のソバ畑で野外調査を実施した.
 まず,野外調査で得たコアオの訪花個体数やソバの開花数と気象庁のデータベースから取得した気温や風速などのデータを用いて一般加法モデル(GAM)を構築し,コアオの訪花個体数と影響を与える環境条件について検証した.次に,昆虫の体表面に付着した花粉数を分離・推定し,コアオの性や訪花時間帯,他の昆虫分類群との間で比較した.
 その結果,コアオの訪花個体数は開花の最盛期の午前中,25℃以上の気温下で多くなり,風速の影響は小さいことが明らかになった.付着花粉数は午前中に多く,ハナバチ類と同程度だった.雌雄間で付着花粉数に有意差はなかった.以上から,コアオはソバのポリネーターである可能性が高い.特に,開葯直後の午前中や開花の最盛期といった餌資源の多い条件下及び活動に適した気温下においてソバの結実に貢献していると考えられる.また,訪花行動が風速の影響を受けにくい点や雌雄ともに花粉を運搬可能である点がコアオのポリネーターとしての特徴だといえる.


日本生態学会