| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-197  (Poster presentation)

アカアシオオアオカミキリによるナラ枯れ被害クヌギの利用【O】
Utilization of Japanese Oak Wilt-affected Quercus acutissima by Chloridolum japonicum【O】

*今道優(国際基督教大学), 鎌田直人(東京大学), 藤沼良典(国際基督教大学)
*Yu IMAMICHI(International Christian Univ.), Naoto KAMATA(The University of Tokyo), Ryosuke FUJINUMA(International Christian Univ.)

 カミキリムシは、幼虫が木材を食べる材食性昆虫である。近年、大径木の多い雑木林におけるブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)の発生増加に伴い、材食性昆虫の餌となる衰弱木や枯死木が増加している。しかし、ナラ枯れがカミキリムシ群集に与える影響についての研究は少なく、また、ミズナラを対象木とした調査が主であるため、クヌギ・コナラなどほかのブナ類樹木での影響を調べることが喫緊の課題である。そこで、本研究はクヌギの衰弱木または大径木を寄主とするとされるアカアシオオアオカミキリ(Chloridolum japnicum)を対象とし、ナラ枯れ発生地域における個体群を調査した。
 調査は7月1日から8月31日の夜間に計21回行われた。本種は東京都多摩部と神奈川県で発生が多く報告されているため、北多摩部の雑木林において18本のクヌギと6本のコナラを対象とし、樹種、胸高直径、ナラ枯れの有無、樹液滲出の有無を記録した。また、各樹皮上における本種の個体数と行動(生殖、後食、歩行)を記録した。その結果、本種はクヌギにおいて26倍の個体数が計測された。同様に、胸高直径の大きい木ほど有意に多くの個体が確認された。加えて、ナラ枯れ被害木ほど有意に多くの個体が確認された。しかし、樹液滲出の有無は有意差を認めなかった。ナラ枯れの有無による本種の行動も有意差は見られなかった。
 これらのことから、本種はクヌギを寄主とする既知の情報を支持した。また、大径木を選好することが示された。ナラ枯れの発生はブナ類の大径木に多く確認されるため、衰弱したクヌギを寄主とする本種に正の影響を与えていると示唆された。また、樹皮上の本種の行動に有意差は見られなかったが、主な誘因は樹液の後食ではなく、幼虫による材の摂食を前提とした寄主としての利用であることが示唆された。


日本生態学会