| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-200  (Poster presentation)

トビケラにおける機能的な交尾器の形態変異ー種内・種間変異から選択圧を探るー【A】【O】
Morphological variation of functional genitalia in Trichoptera species: Inferring selective pressures from variation within and between species【A】【O】

*佐藤緑海(千葉大学), 倉西良一(千葉大学, 神奈川工科大学), 村上正志(千葉大学)
*Ryo SATO(Chiba Univ.), Ryoichi KURANISHI(Chiba Univ., KAIT), Masashi MURAKAMI(Chiba Univ.)

昆虫の交尾器は、形態が進化しやすい上に種内で安定していると一般的に言われる。つまり、交尾器には種特異的な鍵と鍵穴関係が成立する一方、種ごとに顕著な特異性を示すことが見込まれる。このような特異化は、交尾器が種ごとに機能することで生じる性選択に依ることが分かっている。一方で、近年発表された理論研究では、繁殖に関わる形質の多くが片方の性でのみ見られるため、これに関わる遺伝子にかかる選択が緩和するとし、実際にオスの精液タンパク質の形成に関わる遺伝子は非同義的な変異が大きいことが実証されている。これらの過程により、機能的な交尾器形質でも同種集団内で形態が多様化する可能性がある一方で、性選択による集団内で特異化も作用すると考えられ、交尾器形質の集団内・集団間変異の実態に興味がもたれる。本研究では、ナガレトビケラ (Rhyacophila)属の一種であるレゼイナガレトビケラ(R. lezeyi)を材料とした。本種の交尾器形質は複雑な構造をもつが、その機能性や雌雄での形質の変異性は明らかではないことから、機能性を明らかにし、それと関連付けて形質の変異性を相対的に評価した。まず、交尾中に異性の交尾器との接触による機能性が確認された雌雄の繁殖形質と非繁殖形質の計8形質で、形態の集団間変異の指標であるプロクラステス距離を算出した結果、交尾器形質でより大きな値を示した。また、集団内の形態変異の大きさを表す Total variance を形質ごとに算出したところ、いずれの繁殖形質も非繁殖形質より大きな値を示した。そして繁殖形質のサイズにも、非繁殖形質より大きな集団内・集団間変異が見られた。本研究で見られた繁殖形質の大きな集団間変異は、集団間で交尾器形質に分岐選択が生じていることを示唆する。一方で、繁殖遺伝子への選択の緩和により、交尾器形質の集団内変異も大きくなる可能性を示している。


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