| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-203 (Poster presentation)
ヒゲブトハネカクシ亜科は、16,800種以上もの種が62族に分類される巨大な分類群であり、世界中の多様な陸上環境に生息する。このうち、シロアリの巣に特異的に見られるものは好白蟻性種と呼ばれ、これまでに17族から700種以上の好白蟻性種が報告されている。好白蟻性ハネカクシのほとんどは寄主と種特異的に関わり、寄主との共進化を通して多様化してきたと考えられる。また、好白蟻性ハネカクシには、カブトガニ型や腹部肥大型などの収斂形態が知られる。
近年、Globitermes sulphureus (シロアリ科: シロアリ亜科) の巣から、腹部肥大型ハネカクシの未記載種が発見された。本未記載種の腹部には、好白蟻性Corotocini族の一部の種に見られる擬付属肢様構造がみられる一方で、Corotocini族の特徴である触角末端節の窩状感覚⼦などの形態が見られない。また、その他の形態についても特殊化が著しく、形態情報だけでは亜科より下位の分類群の同定が難しい。そこで本研究では、DNA情報を用いて本未記載種の亜科内における系統的位置を推定した。
分子系統解析の結果、本未記載種はヒゲブトハネカクシ亜科の大系統の1つであるAPLクレード内に復元された。一方、Corotocini族は、他の大系統であるOPHクレードに復元され、本未記載種と遠縁であることが示された。また本未記載種は、支持率が低いながらもHomalotini族Homalotina亜族に属するAnomognathus属に近縁であることが示唆された。本未記載種には、APLクレードやHomalotini族の特徴として知られる形態形質がほとんど見られない一方で、雄交尾器にはAnomognathus属との共通点が複数見出された。これらの共通する特徴は、好白蟻性の獲得による特殊化を経てもなお系統内で安定的な形質である可能性が考えられる。