| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-204  (Poster presentation)

山岳湿原の植物群集の安定性を規定する種の非同調性と優占種動態【A】【O】
General stabilizing effects of species asynchrony and dominant species on plant communities across Japanese moorlands【A】【O】

*野中駿, 佐々木雄大(横浜国立大学)
*Shun NONAKA, Takehiro SASAKI(Yokohama National Univ.)

 植物群集の安定性は生態系機能やサービスの安定供給に繋がる重要な要素である。地球環境変動の下、生態系サービスを持続させるために自然環境下での群集の安定性を向上させることへの関心が高まっている。既存研究では、種多様性が高いほど群集は安定化することが示されてきた。また湿原生態系においては、維管束植物とコケ植物の相互作用が顕著に表れるユニークな生態系であることから、この関係性が維管束植物群集の安定性に影響を与えることが示唆される。湿原生態系は地球規模の炭素隔離や気候調節などの重要な機能を有しているにもかかわらず、生物多様性と安定性の関係性やそのメカニズムに関する一般的証拠は不足している。本研究では、日本の亜高山帯及び北方湿原における維管束植物群集の安定性とその潜在的な要因の一般的な関係を明らかにする。
 本研究では、環境省が提供する植生データ「モニタリングサイト1000」を使用した。このプロジェクトでは、長期的に植物の種組成や多様性のデータが標準化された手法で収集されている。全国8サイトのデータを用いて、湿原群集の安定性とその潜在的要因の間の仮説関係を検証する。
 検証の結果、種の非同調性(種ごとの時間的動態の不一致性)、種の安定性(種ごとの安定性の相対被度による加重平均)、組成の安定性(種組成の時間的安定性)が群集の安定性に寄与していた。コケ植物の被度は、種の非同調性を介して不安定化効果をもたらしていた。種多様性は、種の非同調性を介して安定化効果をもたらしていたが、種の安定性への負の影響により、全体の安定化効果は僅かであった。
 本研究の結果は、優占種を対象とした保全戦略の重要性と種の非同調性の維持における生物多様性の重要な役割を明らかにした。また、日本の亜高山帯及び北方湿原における最も広範囲なデータを用いて、山岳湿原の植物群集の安定性の規定要因を明らかにした。


日本生態学会