| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-205  (Poster presentation)

里山の赤トンボ数種の分布と森林景観との関係【O】
Relationships between distributions of several Sympetrum dragonflies and forest landscapes【O】

*東川航(森林総合研究所)
*Wataru HIGASHIKAWA(FFPRI)

里山に生息するアキアカネ、ナツアカネ、ノシメトンボ(トンボ科アカネ属)の3種成虫は、夏には避暑のために山地の森林内で過ごすとされ、秋には低地の繁殖地周辺の森林をねぐらとして利用する。これらの知見は主に観察記録によるものであり、それぞれの季節に各種の生息地となる森林の地理的条件は詳しく分かっていない。そこで本研究では、中部から近畿地域において各種の季節分布と森林景観との関係を調べた。分布調査は、個体が山地森林にひそみ発見率が著しく低くなる盛夏を避け、個体が山地を降りて山麓に集まる晩夏および低平地で産卵する晩秋の2季節に行った。各季節において、個体数と周囲の森林面積との関係を一般化線形混合モデルにより解析した。晩夏のデータでは、種によって標高が異なる可能性のある盛夏の生息地(山地森林)が分布に影響すると考えられたため、各種の個体数と標高200m刻みの各標高帯における森林面積との関係を解析した。晩秋については、森林の標高よりもむしろ繁殖地周囲の森林面積が重要と考えられたため、各種の個体数と標高を区別しない森林面積との関係を解析した。なお、晩秋については個体数と森林面積との関係が一山型になる可能性を考慮して、説明変数に森林面積の2乗項も加えたモデルを検討した。各解析においてはAICが最小のベストモデルを採択した。解析の結果、晩夏では種によって異なる標高帯の森林面積が説明変数として選ばれ(アキアカネ、標高600-800m;ナツアカネ、標高400-600m;ノシメトンボ、標高200-400mの森林面積)、各場合で森林面積は正の効果を示した。晩秋では各種で森林面積およびその2乗項を説明変数に含めたモデルが選ばれ、個体数と森林面積は一山型の関係を示した。このことから、夏季は各種が異なる標高帯の森林を生息場所とする可能性が示唆され、秋季はねぐらとなる森林が繁殖地の周囲に一定量必要である可能性が示唆された。


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