| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-207 (Poster presentation)
被子植物(花)と送粉昆虫の相互作用は、基礎生態学的な研究や栽培植物への送粉サービスの研究において重要な対象となっている。しかし、世界的に花や送粉昆虫の多様性は急速に失われており、それらの相互作用を迅速かつ正確に記述する必要がある。これまで、花における送粉者相の記述には、直接観察法、タイムラプスカメラ撮影法、デジタルビデオカメラ録画、環境DNAメタバーコーディング解析などが用いられてきた。ただし、各記述手法にはそれぞれ異なるメリットとデメリットがあると考えられ、その総括は、研究内容に応じた適切な手法の選択のために不可欠である。
本研究では、手法の特徴を整理することを目的とし、同じタイミングで同じ花を対象にそれぞれの手法による訪花者記述を実施し、各手法の違いを比較した。環境DNAメタバーコーディング解析に関しては、手法の確立も目指し、幅広い分類群の昆虫を増幅できるMtInsects_16S-Primerを導入するとともに、ろ過による微小な卵や幼虫の除去の効果を検証した。
その結果、訪花者の同定精度は直接観察法が最も高く、デジタルビデオカメラ録画法が最も低かった。一方で、記録された訪花頻度はデジタルビデオカメラ録画法が最も高く、直接観察法が最も低いという結果が得られた。またデジタルビデオカメラ録画法とタイムラプスカメラ撮影法では訪花者の滞在時間により、記録される個体数が大きく異なった。
また、環境DNAメタバーコーディング解析では、他の手法、特に直接観察法と比較すると送粉昆虫の検出数は少なかった。送粉昆虫は滞在時間が短いため、環境DNAの放出量が少ないことが原因であると考えられる。また、参照DNAデータベースの拡充が種同定に必須であることが示された。さらに、ろ過時に使用したフィルターからは主に植食昆虫が検出され、ろ液からは送粉昆虫を含む多様な昆虫が検出され、フィルター使用は送粉者検出に有効であることが示された。