| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-208 (Poster presentation)
MIG-seq(Multiplexed ISSR genotyping by sequencing)法は,Suyama and Matsuki (2015)によって発表された縮約ゲノムデータを取得する手法である.ランダムプライマーを使用するため事前に配列情報が不要である点,低濃度・低品質のDNAからでも塩基配列の取得が可能である点,時間・金銭的な観点から比較的低コストである点などが利点として挙げられる.主に植物の系統解析,集団遺伝学的解析,クローン識別などに用いられている.本研究では,体サイズの都合から抽出DNA量が微量とならざるを得ない,微小甲殻類の一群である貝形虫を対象に同法による集団解析を行った.
今回対象としたのは,貝形虫の中でも小型な湧水棲の2属3種,Lissostrandesia fonticola,Cavernocypris hokkaiensis,C. cavernosaである.いずれも体長1㎜以下と非常に小型な底生生活者で,生涯を通して浮遊性期を欠くため,移動分散能力は非常に低いと予想されるが,前2種は東日本に,3種目は西日本に広く分布する.5集団45個体のL. fonticola,11集団47個体のC. hokkaiensis,12集団35個体のC. cavernosaを用いてMIG-seq解析を行った所,それぞれ36,14374,16414個のSNPsを取得した.このSNPsを基にSTRUCTURE解析,Neighbor-Net解析,pairwise FSTの算出を行った結果,L. fonticolaでは東日本一帯に分布する集団すべてが一つの遺伝的クラスターに属することが明らかになった.一方,Cavernocypris属の2種については,各集団に由来する個体ごとの排他的なクラスター構造が見られ,高い地域固有性が示唆された.ただしC. hokkaiensisについては海峡を挟み,長距離離れて位置する集団間で共有されるような例外的な遺伝的クラスターが見られた.