| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-210 (Poster presentation)
生態系機能の時間的安定性は人々が継続的に生態系機能やサービスを享受する上で重要な要素である。特に植物の一次生産性(バイオマス)の時間的安定性は家畜や野生動物の餌資源の供給や栄養循環、炭素固定に影響する重要な機能である。一般的に、種や機能的多様性が高い群集では、種によってバイオマス増減のパターンが異なるという種間の非同調性(Asynchrony)や群集を構成する個々の種や特定の優占種のバイオマス増減が少ないという種ごとの時間的安定性(Species temporal stability)が高くなり、群集全体のバイオマスの時間的安定性が保たれると言われている。しかし、自然群集では植食者による被食圧やより上位の栄養段階の生物によるトップダウン制御のように、異なる栄養段階の生物群が植物バイオマスの変動に影響を与えていると考えられる。本研究では内モンゴル自然草原の植物除去操作実験区において、3年間にわたり植物の一次生産性と上位栄養段階(植食者・捕食者)の節足動物の関係を調査した。解析の結果、植物バイオマスの時間的安定性は植物の非同調性と捕食者の種ごとの時間的安定性の正の影響と植食者の種多様性の負の影響を受けていることが明らかとなった。また植食者の非同調性の増加は植物の非同調性を低下させ、間接的に植物バイオマスの時間的安定性を低下させることが明らかとなった。以上より、上位栄養段階の生物による栄養カスケードの影響は一次生産性の時間的な安定において強力に作用することが示唆された。また植食者の非同調性がトップダウン的に植物の非同調性を低下させていたことから、乾燥草原の植食者の食性はジェネラルであり、加えて特定の植食者種の被食圧の影響が強い可能性があると考えられる。