| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-211 (Poster presentation)
絶滅生物が絶滅に至るまでの遺伝的多様性の変遷を理解することは、将来の絶滅を防ぐために重要である。また、陸上ほど明瞭な地理的分断がみられない海洋では、しばしば近縁種間の交雑が確認される。交雑を含む複雑な進化の過程の解明のためには現生種のみならず、絶滅した近縁種の影響も考慮する必要がある。
本研究では1975年の竹島での目撃を最後に現在は絶滅したとされるニホンアシカ Zalophus japonicus に着目した。横浜市に位置する縄文時代後期の称名寺貝塚から出土した約4000年前のニホンアシカ2個体と、北海道の現生のトド Eumetopias jubatus 1個体について新たに全ゲノム配列を解読し、ニホンアシカの縄文時代~近代の遺伝的多様性及びトド属・アシカ属の集団史の解明を目的に解析を行った。
1.ミトコンドリア配列から探るニホンアシカの遺伝的多様性の変化
アシカ属のミトコンドリアハプロタイプネットワーク及び塩基多様度から、縄文時代のニホンアシカ集団では同種の近代頃の竹島集団を含めて、現在の同属種のどの個体群よりも高い遺伝的多様性が示唆された。一方、近似ベイズ計算(ABC)では縄文時代から近代にかけて有効集団サイズは一定とするモデルが最も強く支持され、ニホンアシカは近現代に急減したという従来の説を裏付ける結果となった。
2.全ゲノム配列から探るトド属・アシカ属の集団史
交雑解析からトド属・アシカ属の間の属間交雑に加え、分布が重複していた北海道のトドとニホンアシカの間での交雑が起きたことが示された。さらに、PSMC解析からもトド属・アシカ属間で集団が分かれた後種分化の成立までに、小規模な遺伝的交流が数十万年間継続していたことが推測された。その分岐の一部は海水温低下と同時期に生じており、生産性向上や寒冷環境からの逃避が種分化を促した可能性がある。