| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-218 (Poster presentation)
脊椎動物における過去のゲノム倍加は多様化の起爆剤となったと考えられるが,多倍数性種が誕生し,維持され,再二倍体化するプロセスについての理解は十分でない.ドジョウ科シマドジョウ属Cobitisは日本で同質4倍性と異質4倍性と考えられる種が混在し,脊椎動物におけるゲノム倍加の仕組みを研究する上でモデルケースとなりうるが,過去の交雑や倍加の系統的起源については十分に明らかにされていない.そこで本研究では,日本産シマドジョウ属魚類について詳細な遺伝的集団構造とともに過去の交雑の履歴を明らかにし,多倍数性種の起源を推定することを目的とした縮約ゲノム解析を行った.日本全国の約140河川で採集されたシマドジョウ属10種7亜種約800個体を対象に,MIG-seq法によるゲノムワイドSNPデータを取得した.2倍体のシマドジョウ属6種について最尤法による系統樹推定を行ったところ,スジシマドジョウ種群とシマドジョウ種群の2系統の分化が支持され,両種群が入り混じるmtDNA部分配列による系統樹とは一致しなかった.スジシマドジョウ種群とシマドジョウ種群の系統ごとに実施したクラスター分析によって,地域集団間におけるmtDNAと核DNAの分布境界の不一致や,分布域の接する地域での遺伝的混合が複数示唆された.一方,2倍性種から抽出された種間識別ローカスへのマッピングから多倍数性種のもつアリルの由来が推定された.異質4倍性種のオオガタスジシマドジョウでは,先行研究で推定されていた3種に加えて新たに1種の親種候補が得られた.また,同質4倍性種とされてきたオオシマドジョウは,既知の親種に加え2種の親種候補が見出され,実際には過去に交雑を経た異質4倍性種と示唆された.多倍数性種が過去にスジシマドジョウ種群とシマドジョウ種群という2系統間での交雑を経験したこと,そして両系統内の交雑によるゲノム倍加が見られないことは,属内の離れた2系統間の交雑がゲノム倍加に重要であると考えられた.