| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-221  (Poster presentation)

温暖化下における農薬暴露に対する生態応答の評価:地域を超えて適用可能な指標の検討【O】
Evaluation of cross-regional indicators for ecological responses to pesticide exposure under global warming【O】

*平岩将良(近畿大学), 石若直人(近畿大学), 橋本洸哉(弘前大学, 国立環境研究所), 土屋健司(国立環境研究所), 角谷拓(国立環境研究所), 早坂大亮(近畿大学)
*Masayoshi HIRAIWA(Kindai Univ.), Naoto ISHIWAKA(Kindai Univ.), Koya HASHIMOTO(Hirosaki Univ., NIES), Kenji TSUCHIYA(NIES), Taku KADOYA(NIES), Daisuke HAYASAKA(Kindai Univ.)

現行の農薬などの化学物質に対する生態毒性評価は、単独の生物種ごとに耐性値を計測・推定し、対象物質の環境中濃度に応じたリスクを推定することに主眼が置かれている。しかし、現行の手法では実環境における予測が困難な場合がある。例えば、同じ生態系であっても生息する種の組成は異なるため、種レベルの指標は特定の地域の毒性影響を高い精度で評価できるが、異なる地域への汎用性が低い。一方で、目レベルなど上位の分類群に基づく指標は地域を超えて適用しやすい汎用性を持つが、毒性影響の評価精度が低下する可能性がある。また、生物間相互作用を考慮しない従来の評価では、農薬による捕食者の減少に伴う被食者の増加など、間接的な生態応答を適切に評価できない可能性がある。生物の組成や間接効果の強さは地域ごとに異なるため、間接影響を考慮することで地域を超えた予測の精度を高めることができるかもしれない。
そこで本研究では、地域を超えて適用可能な生態毒性評価指標の開発を目指し、水田生態系を対象に毒性評価の精度と汎用性のバランスのとれた手法の探索をおこなった。つくば市と奈良市の2か所に水田メソコスム(人工生態系)を各16基設置し、地球規模で進行する温暖化の観点から、農薬と温暖化を組み合わせた4つの処理(無処理、農薬処理、温度上昇処理、農薬と温度上昇の複合処理)を設けた。1週に1回の頻度で生物調査を実施し、農薬と温暖化が各生物群に与える影響を評価した。その結果、温暖化下での農薬曝露に対する生態応答は、一律ではなく、分類群や地域によって異なることが示唆された。また、上位の分類レベル(目・科など)や摂食機能群レベル(捕食者など)、相互作用を加味した指標を作成し、それぞれの指標の汎用性と精度について評価した。本発表では、これらの評価基準にもとづき観察された生態応答の違いから、地域を超えて精確に予測可能な評価指標について議論する。


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