| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-224 (Poster presentation)
生物多様性とは、生態系、種、遺伝子レベルでの生きものたちの豊かな個性とつながりのことである。ここ数十年の間で生物多様性という言葉は一般化し、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開かれるなど、生物多様性を守ることは国際的な課題となっている。生物多様性の定義は概念的かつ柔軟な解釈が可能のため、合意形成がしやすい一方で、具体的に捉えることが難しい側面もある。国際目標の枠組みの中では「生物多様性保全」、つまり生物多様性を増進させる、または減少しないような働きかけが重要とされている。しかし、本発表では、単純な生物多様性の増加が必ずしも本質的でない、もしくは望ましい結果とならないかもしれない2つの事例を紹介したい。一つ目の事例は、環境DNAを用いた魚類調査のオープンデータベース「ANEMONE DB」(https://db.anemone.bio)を用いた解析例である。この解析では、地球温暖化によって日本近海の海水温が上昇し、結果として魚類多様性が上がる可能性が示唆された。しかし、海水温の上昇による日本近海の生物多様性の増加は本質的ではない可能性がある。なぜなら多様性に貢献する多くの魚種は季節来遊魚と呼ばれる、夏期に海流に乗って運ばれてくる魚で、その地域の再生産に寄与しないことが推察されるからである。2つ目の事例は人間がコストをかけることによって維持される生物多様性である。コストをかけて維持する必要のある緑地作りによる多様性保全も、持続可能性の観点から考えると望ましい方法ではない可能性がある。発表では、これらの事例をもとに多様性が高いということについての意味や、それを捉えるための考え方についても議論したい。