| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-226 (Poster presentation)
環境DNA分析は水や土壌中に存在する生物由来のDNAを包括的に分析することで、非破壊的に生物相を調査する手法である。分析対象として森林水系に注目すると、採取した河川水サンプルに含まれるDNAは、採取地周辺のみならず水系上流の生物のDNAも含まれていると考えられる。したがって、森林水系の環境DNA分析手法を確立できれば、集水域レベルでの生物多様性情報を取得することができると考えられる。本研究は河川水を用いて、森林における優占樹種構成と優占樹種内の遺伝的多様性を非破壊的に検出する手法を開発することを目的とした。
まず環境DNA分析によって水中に落下するなどした植物組織由来のDNAの検出が可能かを調べるために、河川水を模して水と植物葉片をチューブに入れた人工サンプルを作成し、水中のDNAを分析した。その結果、水中からチューブに入れた植物種のDNAは検出可能であり、また複数種の葉片を入れた場合もそれぞれの植物のDNAを区別して検出できることが分かった。つぎに河川水由来の環境DNAを対象に、地点間の植生の違いや季節による変化が検出可能かを調べた。宮城県内の冷温帯落葉広葉樹林内の2つの河川を対象に、複数の季節に上流から下流の異なる地点で河川水から環境DNAをフィルターろ過法によって採集した。DNAはMIG-seq解析用のISSRプライマーを用いてPCR増幅させ、配列情報を取得した。得られた配列をデータベースと照合した結果、全配列のうち約0.05~0.5%が植物由来と同定され、サンプリング地点周辺およびその集水域に分布する分類群と一致する配列が検出された。また河川及び季節間で検出された植物の構成割合が異なっていた。これらの結果から、河川水から得られた環境DNAによって集水域の樹木種を検出できることが明らかになり、地点および季節による違いも検出できている可能性が示された。さらに、取得した配列を用いて行った優占樹種の遺伝的多様性評価についても発表する予定である。