| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-228 (Poster presentation)
森林構造は、動物の分布、行動、生存に影響を及ぼす重要な要因である。構造が複雑であるほど、捕食回避や資源利用、休息に適した多様なニッチが形成され、より多くの種が利用可能になるためである。従来の研究では、森林の葉面積指数やギャップの分布、樹冠高などの構造要因が動物の分布や個体数に関連することが示されている。しかし、それらの研究は種の在不在や分布パターンに焦点を当てており、動物種および動物群集レベルにおける森林構造に対する応答、森林構造と行動の多様さやニッチの利用実態との関係については十分に明らかにされていない。
そこで本研究は、森林構造が哺乳類の種多様性と行動の多様性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。本研究では、人の手がほとんど入っていない天然林と単一種の針葉樹人工林が同所的に存在する知床国立公園を調査地とした。ここでは、人工林を針広混交林化させる取り組みとして、人工的なギャップ形成や間伐が実施されている。5つの森林構造タイプ(天然林ギャップ区・対照区、人工林ギャップ区・間伐区・対照区)にて、自動撮影カメラで哺乳類の行動を観察し、ドローンLiDARにて森林構造指標を取得した。2024年5月~9月に観察された11種の哺乳類について、行動情報(行動の種類や行動時間)を定量化した。
その結果、種多様性は、樹冠被覆率が比較的高い天然林ギャップ区・対照区、人工林対照区で高く、森林構造の空間的異質性(樹冠高・樹冠被覆率のばらつき)が影響していることが分かった。また、行動の多様性は天然林ギャップ区と人工林ギャップ区で高く、種多様性よりも多くの空間的異質性に関する指標(樹冠高・樹冠被覆率・樹冠表面の凹凸のばらつき)が影響していた。これらの結果は、森林生態系における哺乳類の多様な利用を促進するためには、単なる森林面積の増加だけでなく、森林内の構造的多様性などの「質」にも配慮する必要があることを示唆するものである。