| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-231 (Poster presentation)
本来の生息地から別地域に人為的に移入される「国内外来種」は、地域の生物多様性への影響の大きさから、社会的に注視されている。本研究では、沖縄諸島から本州中部に自然分布し、1990年代以降、自然分布域外の関東地方などで国内外来種とされる両生類ヌマガエルに着目した。本種の導入要因として、土壌などを介した人為的な移動が挙げられる一方、その分布拡大経路や環境適応実態などは不明である。本研究では、ヌマガエルの全国的な表現形質変異および遺伝構造を明らかにすることを目的とした。
両生類では、色や模様などが表現型多型の形質として知られており(Hoffman and Blouin 2000)、背中線の有無などの多型は進化が早く、また平行進化することなどもわかってきている(Goutte et al. 2022)。そこで、自然分布域~導入域までの全国119地点から採集したヌマガエル1,576個体について、背中線の有無および鼓膜がオレンジ色に発色しているかの2つの表現型形質を評価した。また 、各地点から1個体ずつ選抜した母性遺伝するミトコンドリア(mt)DNAのCyt b領域、16S領域およびD-loop領域の塩基配列を決定した。その結果、九州地方では背中線を持つ個体頻度が高く、これは先行研究の結果と一致した。さらに、導入域とされる関東地方周辺でも背中線をもつ個体が多いこと が明らかになった 。また、鼓膜が発色する個体は太平洋側 の集団に多いという地理的傾向がみられた。MtDNAの塩基配列では、いずれの領域からも遺伝的な変異は検出されず、ヌマガエルは、自然分布域の九州以北を含め、近年急速に分布拡大したことが示唆された。今後、供試個体を増やすとともに、両性遺伝する核DNAを用いた集団ゲノミクス、表現型多型の遺伝性や可塑性および環境適応との関係の評価を行い、本種のより詳細な遺伝構造や導入経路を明らかにする。