| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-233  (Poster presentation)

大型哺乳類の行動で形成される地形と土壌生態系:堀跡・ヌタ場・獣道【A】【O】
Landforms and soil ecosystems created by behavior of large mammals: digging sites, wallows and trails【A】【O】

*山本美波, 小池文人(横浜国立大学大学院)
*Minami YAMAMOTO, Fumito KOIKE(Yokohama National Univ.)

哺乳動物は行動によって物理的に地表を改変している。しかし動物地形学は、北アメリカにおけるヨーロッパ人入植以前の野生バイソンの痕跡などを除きあまり研究されず、大型野生哺乳類が形成した土壌硬度の空間パターンなど、広義の地形に関連する物理的特性や改変された土壌生態系も解明されていない。
そこで本研究ではイノシシが生息する神奈川県三浦郡葉山町とニホンジカおよびイノシシが生息する神奈川県秦野市横野において、①大型野生哺乳類が形成した堀跡、ヌタ場、獣道の土壌硬度の空間パターンと、②堀跡の土壌中の根密度と土壌動物を計測し、大型野生哺乳類による地表改変と土壌生態系影響を調べた。獣道には明瞭なものと区別がつきにくいものが存在するため、(a)細長い平坦面(長さ2m以上)がある、(b)足跡や歩いたとき削れた土の粉がある、(c)林床植生がないか路外より少なく、かつ20cm以上などの障害になる高い植物がない、(d)路肩構造がある、との判断基準を新たに開発し、全て満たしたものを測定した。
土壌硬度①では、堀跡とヌタ場は周辺の土壌と比較して硬度が有意に小さく、獣道では周辺の土壌と比較して硬度が有意に大きかった。獣道路面の土壌硬度は踏みつけに弱い林床植物種の生育限界を超えており、通過する動物が植生を傷付けるだけでなく、土壌の踏み固めによる土壌硬度の上昇で林床植物の生育が困難になることで、無植生の路面が発達すると考えられる。路肩形成では足跡などによる土壌の横移動が起きている可能性がある。自動車道路の劣化は車両重量の影響が大きいとされ、体重が100kgを越えることがあるイノシシやシカは獣道形成の主要因となり得る。生態系影響②では、堀跡は根密度と土壌動物密度が有意に低く、イノシシの採食が示唆された。
これらの結果は大型野生哺乳類が地表を改変し、土壌生態系に影響与えていることを示す。


日本生態学会