| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-02 (Poster presentation)
近年、地球温暖化による気候変動の影響によって海に生息している魚類の数は減少傾向にあるため、魚類を人工的に繁殖させることは必要であると考えられる。しかし、魚類の中には雌雄が途中で変化する性転換を行う種が多く、見た目では雌雄を判別できない種も多く存在する。本研究では、性転換を行うベラ科の魚類を用いて、赤血球による雌雄判別を確立することを目的とした。それに加え、気候変動による水温の上昇が魚類の性転換に与える影響や生体内外へ与える変化を明らかにすることで、効率的な人工繁殖を目指す。
ベラ科の魚類の中でも採集しやすく、飼育が容易なキュウセンを対象魚とした。キュウセンは体色による雌雄判別が可能であり、雌から雄に性転換をする雌性先熟の魚類である。対象魚を神奈川県の福浦岸壁、江の島にて採集し、体長、体重、体色と採血による血球量・血球種の測定を行い、雌雄・体長に分けて比較した。また、一部の雌は水温条件を変えた水槽(26℃と30℃)で各2匹ずつ飼育した。各水槽において、ビデオカメラを用いた日中の活動時間(遊泳時間)の計測と採血による血球量の測定を行い、気候変動による影響を評価した。
キュウセンは雄に近づくにつれて体長、体重ともに増加傾向にあり、性転換が終了する雄になる段階で血球量が著しく増加することが明らかになった。これは性転換によって雄性ホルモンの増加が促進され、血球量の増加を促したと考えられる。活動時間の比較では、温暖条件(30℃)において活動時間が高く、通常条件(26℃)では砂に潜っている時間が長かった。一方、各条件の個体の血球量を比較すると、温暖条件の個体は赤血球量が少ない傾向を示した。これは水温上昇によるストレスによって血球の合成が阻害されたことが原因だと考えられる。
本研究より、地球温暖化による水温上昇は魚類の血球量を減少させることで性転換にも影響を与える可能性が示唆された。