| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-06 (Poster presentation)
目的
アカハライモリの秋と春の二回にわたって行うという特殊な繁殖生態の意味を、生息域の離れた同属のシリケンイモリの繁殖生態と比較して、イモリ属全体の繁殖生態を解明することを目指した。
1. 序論
アカハライモリの繁殖期は、今まで他の両生類と同じく春から初夏であると考えられていたが、先行研究より秋から始まって冬眠を挟み翌年の初夏にわたる長い期間であるという考えが示された。
本研究では南西諸島に生息する(イモリ属の起源になる中国の種に分布域が近い)シリケンイモリの繁殖生態を調べ、アカハライモリと比較することで、アカハライモリの繁殖生態(長い繁殖期をもち、秋と春の二回にわたって配偶行動を行う)のもつ意味をイモリ属全体の中で考えた。
2. 方法
① アカハライモリとシリケンイモリの生息環境データの比較
②シリケンイモリの固定サンプルから作成した組織標本による生殖器官のステージ分けと組織レベルの周年変化の観察
③ 生殖器官の重量の周年変化の比較
④アカハライモリの貯精嚢内の精子の受精可能な期間の確認
⑤アカハライモリを長期間常温で保持した条件での本来の繁殖期以外での自然産卵の可能性の検証
3. 結果
アカハライモリは配偶行動と産卵期にずれがあるのに対して、シリケンイモリでは配偶行動と産卵期がほぼ重なり12月〜3月であることが確認できた。
4. 考察
アカハライモリとシリケンイモリの繁殖期の気温はいずれも10℃~25℃であり、高温23度で一定期間飼育した個体で、8月の本来繁殖期ではない時期に繁殖行動が確認されたことから気温が引き金となって繁殖行動を起こしている可能性がある。
5. 結論
イモリ属の繁殖生態は「配偶行動を取ってから連続して産卵する」のが基本であり、日本に生息するアカハライモリはイモリ属の分布の北限の種で、低温期(冬)があるという条件への環境適応として今の繁殖生態を獲得したと考えられる。