| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-16 (Poster presentation)
カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)は甲虫目ナガキクイムシ科に属する昆虫の一種であり、ブナ科樹木を枯死させるナラ枯れの原因となる菌を媒介し、木の中で自らの餌となる菌を栽培する昆虫として知られている。本種の雌は菌を運搬するために、菌嚢という窪んだ穴状の器官を備えている。1個体の持つ菌嚢の個数には個体差があり、またその個数は羽化以降に変化しない。
本種にとって菌嚢は菌を運搬するための重要な器官であるにもかかわらず、個体によってその個数が異なることに興味を持った。そこで私たちは菌嚢の個数と配置に見られる規則性を明らかにすることを目的とした。
調査は捕獲と観察に分けて実施した。捕獲では、立川高校敷地内のコナラの成木1本にペットボトルトラップを仕掛けて行った。観察では、双眼実体顕微鏡を用いて捕獲した個体の雌雄及び菌嚢の配置を観察し、これらを記録した。
令和6年5月31日~7月5日の期間で捕獲した10979匹について観察し記録した。観察の結果、雌は6374匹であり、菌嚢の配置パターンは69種類確認することができた。
今回観察された配置パターンでは「等間隔で配置される」・「正三角形を敷き詰めた図形の頂点上に配置される」・「必ず頭部側に配置される」などの規則性がみられた。
また、1個体が持つ菌嚢の個数の最頻値は6個であり、保持する菌嚢がこの個数より多くなるにつれて観察される個体数の割合が減少していく傾向がみられた。加えて、6個より少ない個数の菌嚢を保持する個体は6374匹中27匹と、極めて小さい割合で存在していた。
今回は高校内の一地点という限られた環境下での調査であったため、別の環境や地域においても発見した規則性が成り立つか確かめる必要がある。よって今後はナラ枯れ被害の対象木の本数が多い森林地域において同様の調査を行い、規則性の信憑性を高めていく。