| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-18 (Poster presentation)
近年水害対策として都市河川においてコンクリートを用いた人工構造物が設置され、瀬や淵等の既存の底生生物の生息地が減少している事例が見られる。都市河川において生物多様性の保全が注目されており、河川構造物が生物多様性に与える影響を明らかにすることは、その保全につながるだろう。本研究では、人工構造物周辺は瀬や淵等の天然の河川環境と比較して多様度が低いのではないかという仮説を立て、その検証を行った。また河川構造物ごとの底生生物の季節消長についても明らかにした。
本研究は、東京都を流れる野川にかかる高谷橋から野川橋にかけた平瀬、淵、早瀬、コンクリート河床の4ヶ所の河川環境で、2024年1月から2024年12月まで毎月1回調査を行った。30×30(cm)のサーバーネットを用いて、1ヶ所につき5つのサンプルを採取し、後日実験室にて同定を行った。
結果、シンプソンの多様度指数の通年平均は平瀬では0.557、淵では0.379、早瀬では0.567、コンクリート河床では0.474となった。この様に仮説とは異なり、コンクリート河床ではなく淵で最も顕著な多様度の低下が見られた。また、コンクリート河床の常在度が平瀬や早瀬と類似していた。このことからコンクリート河床は瀬と同様の生物相の形成が期待できると考察される。
また、季節消長についても、6月に個体数密度が顕著に減少した後、徐々に回復し秋頃にピークを迎えるという点において早瀬とコンクリート河床で類似していた。このことからもコンクリート河床の生物相は瀬と類似していると考察される。
結論として、コンクリート河床は瀬の代替として底生生物相の形成が期待でき、水害対策としてコンクリートを用いた人工構造物を一部にだけ設置するのであれば、河川の生物多様性に大きな影響を与えないことが考えられた。