| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-21 (Poster presentation)
<p> 駒場野公園は東京都目黒区に位置する都市公園であり、狭い面積ながら多様な里山環境が維持されている。当地を特徴づけるものとして明治期より耕作が続く「ケルネル水田」が挙げられ、区部では極めて稀な水田環境が雑木林に隣接した形でまとまって維持されている。
駒場東邦及び筑波大学附属駒場両校の生物部は駒場野公園自然観察舎協力の元で2021年度より当地の生物相調査を行っており、本研究でも一環として生物相調査を実施した(2023-2024年度)。調査は園内の水田と池及び周辺環境を対象として毎月実施した。調査方法はルッキングと捕獲を主とし、トラップによる捕集、環境DNA、センサーカメラを用いた。調査期間中に水田で複数回の改修工事が行われており、改変による生態系の変化にも注視した。
調査の結果、水田周辺で143種が出現した。うち外来種は20種と少なかった。この要因として、一般の立ち入りを規制している管理方法に加えて谷津地形かつ開口部が堤に遮られる閉ざされた立地的特徴が影響していると考察した。また、確認された水生植物のうち約25%が東京都レッドリスト記載種であったことは周辺に水田が存在しないことと併せて当地の重要性を強く示唆している。一方、池周辺の全出現種数は水田と比較して少なく(22種)、樹林に囲まれた閉鎖的な環境が影響している可能性があると考察した。
以上の結果を踏まえ、今後の調査では水田工事後の種構成を詳細に記録することで工事が生物多様性に与えた影響を解明することが特に求められる。また、アメリカザリガニやセンサーカメラで確認されたアライグマといった侵略的外来種の動向にも引き続き注視していく必要がある。近年、環境アセスメントなどの制度化に伴い森林環境の生物相調査の重要性が再認識されており、区内でも有数の生物多様性を誇る本公園の調査を継続することは意義深いと言える。</p>