| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-29 (Poster presentation)
神奈川県の鳥獣保護区に指定されている銅像山は、横浜市の貴重な森林生態系として機能している。一方、近年地球温暖化によって森林は減少し、炭素吸収源としての機能低下が報告されている。地球温暖化を緩和するために森林生態系を保全することは重要であり、森林の炭素固定機能を改善が必要であると考えられる。本研究では、森林の炭素固定機能の改善策としてバイオチャー(木材や生物の遺骸を嫌気的条件下で加熱し炭化させたもの)を林床に散布し、森林生態系の炭素収支の測定を行った。経年比較によって①バイオチャーが炭素収支に与える影響の解明と②バイオチャーの炭素隔離効果の検証を目的とした。
2020年に調査区(15m×15m)を2つ設置し、2021年にバイオチャーを片方の区に10t/ha散布した。樹木成長量(ΔB)および枯死脱落量(LF)を測定し、ΔBとLFの和を炭素固定量とした。炭素放出量は土壌呼吸量(SR)と地温の値から温度呼吸曲線を作成し、SR積算値と寄与率を用いて推定した。炭素固定量と炭素放出量の差より、2021年から2024年における生態系純生産量(NEP)を算出した。
散布区のΔBは、非散布区に比べ経年的に維持される傾向を示した。また、胸高直径が10~20㎝の樹木のΔBは、散布区で有意に高かった。また、散布区のLFでは、葉と生殖器官の増加がみられた。2021年~2023年の炭素固定量は両区ともに減少傾向にあったが、散布区における減少量は非散布区と比較しても小さくなった。一方で、バイオチャー散布によるSRの増加が懸念されていたが、本研究では初年度にとどまった。また、散布区では土壌微生物による抑止力活性が向上しており、土壌改良への関与も示唆された。
NEPの経年変化は非散布区よりも散布区で高い傾向を示したことから、森林へのバイオチャー散布は炭素固定機能を改善し、炭素隔離効果を発揮することが明らかになった。