| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-31 (Poster presentation)
タブノキは、クスノキ科の常緑樹であり、照葉樹林の主要構成種の一つである。夏季に結実し、鳥類がその種子散布を担う。その分布域は比較的広く、冷温帯から亜熱帯まで幅広い気候帯に分布している。したがって、タブノキの生態には、鳥類による被食や温度に対する様々な適応があり、そうした適応は発芽特性にも認められるはずである。また、植物の種子は周囲に他種または他個体の種子が存在している場合、単独で存在している場合よりも発芽時期が早くなる種間競争の関係が報告されている。タブノキの詳細な発芽特性についてはまだ解明されていないことが多い。そこで本研究では(1)タブノキの種子の発芽に及ぼす鳥による被食の効果を実験的に検証することで、タブノキの発芽特性について明らかにすることと、(2)タブノキの種子にも発芽の競争関係が存在するのか明らかにすることを目的とした。
タブノキから240個の種子を採取し、果肉の有無による発芽への影響を調べるため、120個の果実の果肉を除去し(果肉除去群)、残りの120個を果肉非除去(対照群)とした。30℃に設定した人工気象器と室温の条件で発芽試験を行った。また、個体間競争による影響を調べるため、1容器に種子を10個ずつ播種した(集団播種)、1つずつ播種した(単独播種)を30個用意した。30℃と室温で集団播種・果肉有、集団播種、果肉無をそれぞれ3セット、単独播種・果肉有、単独播種・果肉無をそれぞれ30個用意し、発芽試験を行った。
30℃、室温のどちらにおいても単独播種よりも集団播種で発芽時期が1週間程度はやかった。秋ごろにはどちらの条件でも発芽率は70%まで達した。また、果肉有の対照群ではほとんど発芽がみられなかった。
以上の結果から、タブノキの果実には、鳥の被食により果肉が除去されることで発芽が促進される被食効果が備わっていると考えられる。また、タブノキの種子は何らかの方法で他個体の存在を感知し、発芽を早めている可能性が示唆される。