| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-35 (Poster presentation)
亜熱帯気候である南西諸島は、生物多様性に優れた貴重な環境である。近年では地球温暖化の進行により、平均気温の上昇や汽水域での塩分濃度の上昇が危惧され、南西諸島でも被害が報告されている。しかし、生息環境や生息する生物によって被害の大きさは異なるため、不明瞭なことが多い。本研究では亜熱帯水域に生息する3種の生物を対象に、温暖化の影響を再現した水槽を製作し、環境要因の違いが生物の生理活性に与える影響を検証した。
通常の汽水域における塩分濃度の水槽(15‰、Con区)と塩分濃度の高い水槽(30‰、GW区)を製作し、サンゴ砂の上にオヒルギの苗を各3つ植えた。また、クビレヅタとリュウキュウスガモが生息する環境を再現し、異なる温度条件(室温と30℃)で飼育した。各水槽で①各器官の成長速度、②水槽内の溶存酸素量(DO)、③光合成速度、④葉緑素量を測定し、温暖化条件が生物に与える影響を評価した。
オヒルギのCon区では、各器官の成長が速く、新葉も展葉したのに対して、GW区ではほとんど成長が見られず、落葉が多くなった。また、葉緑素量はCon区の葉において増加傾向を示したが、GW区では変化がなかった。さらに、GW区のDOは増加傾向を示したことから、塩分濃度が高いと生理活性が低下する可能性が示唆された。クビレズタの30℃水槽でも同様の生理活性の低下、収量の減少がみられたことから、温暖化による平均水温と塩分濃度の上昇は生息する生物に悪影響を及ぼすことが分かった。一方、リュウキュウスガモでは30℃水槽における成長が速く、40日後には別の藻類が繁茂することで、高いDOを示す期間もみられた。これは高い水温が維持されることで、別の生物が共生できる可能性を示唆しており、生物多様性を高める結果となった。
以上より、温暖化の影響は必ずしも生物の生理活性を低下させるわけではなく、生物多様性を高める可能性がある。