| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-39 (Poster presentation)
【背景・目的】
2023年8月に実施した岐阜県下呂市菅田川の現地調査で,岐阜県初となるチュウゴクオオサンショウウオ(Andrias davidianus)との交雑個体を発見した.交雑個体の爆発的な増加が菅田川の国産個体を絶滅の危機に追いやっていると考え,世代を経た交雑割合の変化とその要因を明らかにし,交雑問題を解決するための方法を考察した.
【材料・方法】
菅田川にて夜間調査を含む計23回の現地調査を行い,計測・組織の採取・核マイクロサテライトDNA解析・mtDNA解析を行った.結果をもとに,頭胴長と肥満度の比較・未来の幼生の交雑割合シミュレーションを行った.
【結果・考察】
核マイクロサテライトDNAの解析の結果,成体40%,幼生77%が交雑個体であり,交雑が進んでいることが分かった.mtDNAの配列解析の結果,鳥取・熊本県の個体で見られた配列と同じ配列を持つ個体を発見し,そのすべてが交雑個体であったため,国内外来の配列をもつ交雑メスが持ち込まれたと考えられた.頭胴長と肥満度の比較の結果,交雑個体は国産個体よりも大きく,栄養状態が良く,競争で有利になっていると考えられた.すべての個体が繁殖に参加した場合の次代の幼生の交雑割合をシミュレーションした結果22%であったが,国産オスが繁殖に参加できていない場合は78%が交雑個体となり,実際の野外での交雑個体の割合と近い値となった.このことから,交雑オスが繁殖巣穴を独占し,国産オスが繁殖に参加できていない状況が起こっていると考えられた.交雑オスをすべて駆除した場合,国産個体の幼生の割合は90%となるため,交雑オスの駆除は交雑の進行の阻止に大きく貢献すると考えられる.また,交雑個体が遡上できない既存の堰堤を利用し,その上流に国産個体のサンクチュアリの創設の検討を進めている.