| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-50 (Poster presentation)
アリ類は真社会性の昆虫であり、その複雑な社会は多様なコミュニケーションに支えられている。一般的なアリ類のコミュニケーション手段としては、フェロモン・基質振動・体の接触などが知られている。アシナガアリ属の一種であるヤマトアシナガアリは、全国の低山地から山地に生息し、個体の女王が産卵を行う単女王制の社会である。また、働きアリは、卵や女王の世話などを担う内勤、餌の収集や捜索などを行う外勤などの分業が見られる。村上ら(未発表)の先行研究から、ヤマトアシナガアリが特定の周波数を発していることが確認されており、基質振動によるコミュニケーションを行っている可能性が示唆されている。本研究では、基質振動がヤマトアシナガアリのコミュニケーションにおいて、どのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的とした。実験には岡山市で採集したヤマトアシナガアリのコロニーを用いた。コロニーの餌場に餌としてミルワームを設置し、床材として、振動の伝わりやすさが異なる3種類(木の板、下敷き、ゴム)を用いた。床材ごとに外勤ワーカーの個体数推移と、ワーカーが餌を発見してから巣に運び込むまでの時間を最大5分間計測し、それぞれの結果を比較した。床材が木の板の場合、外勤ワーカーの個体数増加率が最も高く、餌の運搬時間も最短であった。一方、ゴムを床材とした場合は、個体数に変化が見られず、運搬時間も5分を超過していた。以上の結果から、基質振動がヤマトアシナガアリのコミュニケーションに重要な役割を果たしている可能性が示唆された。振動が伝わりやすい環境では、餌の情報をより迅速かつ効率的に仲間に伝えることができるため、結果として労働効率が向上した可能性がある。今後は、フェロモン、接触といった基質振動以外のコミュニケーション手段との相互作用や、基質振動の種類がコミュニケーションに与える影響について研究を進めていきたい。