| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S02-1 (Presentation in Symposium)
気温が変化するほど長距離の種子散布は、気候変動下での植物の分布変化に重要な役割を果たすと考えられている。しかし、その有効性を左右する、散布方向に関する研究はごく限られている。 長距離種子散布の方向性は、標高 (高標高または低標高への散布)、緯度 (高緯度または低緯度への散布)、経度 (東または西への散布) の 3 つに分類できる。例えば温暖化による温度上昇から効果的に避難するうえでは、気温の低い高標高あるいは高緯度への種子散布のみが重要と考えられる。
本講演では、主要な散布様式である動物、風、川、海流による種子散布に注目して、長距離種子散布の方向性の既知および潜在的な要因を紹介する。標高方向の種子散布では、温帯の動物は餌生物のフェノロジーを追いかけて山を上り下りする結果、春夏には高標高へ、秋冬には低標高へ偏った種子散布を行うことが報告されている。さらに近年の植物の標高方向の分布変化も、これらの種子散布の偏りと矛盾しないことが見えてきている。動物以外では、上流から下流に進む川の流れ、また、おろし風が低標高へ偏った種子散布を行うことが予想される。緯度方向の種子散布では、鳥の春の渡り、台風、海の暖流が種子を高緯度へ、鳥の秋の渡り、海の寒流が低緯度へ偏った種子散布を行うことが予想される。重要なことに、多くの植物では気温の高い場所へ偏った種子散布が起こっていると予想され、効率的には温暖化から避難できていない可能性が考えられた。