| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S02-2  (Presentation in Symposium)

河川性魚類における表現型依存的な流下による進化圧【B】【O】
Evolutionary pressure due to phenotype-dependent downstream dispersal in riverine fishes.【B】【O】

*山田寛之(学振PD, 愛媛大学)
*Hiroyuki YAMADA(JSPS Research Fellow PD, Ehime Univ.)

 生物の移動分散は、表現型に関してランダムに発生すると想定されることが多い。しかし、特定の表現型を持つ個体に、不均一に偏って生じる移動分散を想定することもできる。例えば長い足や羽、探索性の高い行動形質などを持つ個体は、他の個体よりも移動分散しやすいかもしれない。このような「表現型依存的な移動分散」は、特定の表現型を持つ個体を集団から選択的に移出させ、移動先の集団に高頻度で移入させる潜在的な進化圧となる。この移動分散に基づく進化機構は空間的選別(spatial sorting)と呼ばれ、自然淘汰とは区別されている。空間的選別は主に、生息域を拡大している種が、その移動力を迅速に進化させるメカニズムとして研究されており、移動分散に関わる新奇な機能形質を生み出しうる進化機構として注目を集めている。
 河川性魚類では、水流への抵抗力が低い表現型を持つ個体が選択的に流され、下流へと移動分散(流下)する事例がしばしば報告される。このような「表現型依存的な流下」も、流下を回避するための機能形質(流下回避形質)の進化を促す空間的選別の原因となるはずだ。さらに河川では、生物の移動分散を妨げる堰堤や滝などの移動障壁が存在することが多い。移動障壁の上流に隔離された魚類集団では、流下した個体が元の場所に戻ることが困難、もしくは不可能な状況にある。したがってそのような集団では、流下による空間的選別が効果的に累積し、他の集団では見られないような独自の流下回避形質が進化し、維持されている可能性がある。
 演者はこの進化仮説を表現型ベースのアプローチで研究してきた。本発表では、演者が四国においてタカハヤ(コイ科魚類)を対象に行った研究を中心に紹介する。


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