| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S02-3  (Presentation in Symposium)

”歪んだ”移動分散がメタ群集での多種共存を促進する【B】【O】
Anisotropic dispersal promotes species coexistence in a metacommunity.【B】【O】

篠原直登(京都大学), *勝原光希(岡山大学)
Naoto SHINOHARA(Kyoto Univ.), *Koki KATSUHARA(Okayama Univ.)

移動分散はあらゆる生態系に普遍的なプロセスであり、群集動態を考える上で重要な役割を担っている。特に、移動分散の程度は種間の競争の帰結の重要な決定要因であり、古典的な研究では、局所的に共存不可能な種のペアで、分散能力の制限が地域的な共存を可能にし得ることが示されている(それぞれの種の分散距離が短いほど、地域的な共存が促進される)。しかし、これまでの研究では、各種が等方的な分散(例、真円状の分散)を行う特定のシナリオにのみ焦点が当てられており、異方的で方向性が偏った分散(例、楕円状の分散)が共存可能性にもたらす影響については、ほとんど調べられていない。そこで本研究では、競争関係にある2種の二次元格子空間上のダイナミクスを用い、様々な環境異質性の条件下でシミュレーションを行うことで、楕円状に歪んだ分散が共存を促進するのかどうかについて検証を行った。さらに、現代共存理論の枠組みに基づいて侵入増殖率を分解し、それぞれの共存メカニズム(空間的なストレージ効果、増殖率と密度の共分散)の共存に対する寄与を調査した。
 結果から、分散の“歪み”の程度は、分散距離と同様に、共存可能性に影響を与えることが明らかになった。具体的には、分散が環境勾配に対して直行する方向にバイアスしている場合には共存が促進される一方で、分散が環境勾配に対して並行する方向にバイアスしている場合には共存可能性が低くなることが示された。本発表では、“歪んだ”分散と多種共存の関係について、共存の条件(背景となる生息環境がどのような環境異質性を持つ場合に共存が促進されるのか)および、共存のメカニズム(空間的なストレージ効果と増殖率と密度の共分散がどの程度侵入増殖率に寄与するのか)について紹介する。


日本生態学会