| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S02-4  (Presentation in Symposium)

混ざると光る個性:他種との空間的な混在度が花色を差別化する利益におよぼす影響【B】【O】
Effect of spatial species mixing on the benefits of having distinct flower colour from co-flowering species【B】【O】

*高木健太郎, 大橋一晴(筑波大学)
*Kentaro TAKAGI, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

花の形質はなぜこれほどまでに多様なのか。この説明の一つに、種間の花形質の違いが、異種間で起こる花粉の誤送を減らす可能性がしばしば挙げられる。確かに、ハナバチなどの送粉者は、植物種の間で花の色や形が異なるときほど、一種の花ばかりを連続的に訪れる傾向(定花性)を強める。よって多くの研究は、進化・生態学的な群集集合プロセスの帰結として、同じ場所で一緒に咲く植物種は互いに異なる花の形質をもつと予測してきた。しかし、この予測を検証した研究では、必ずしも一貫した結果は得られていない。この不一致に対し、本講演では、他種と異なる花の形質がもたらす利益は、群集内のすべての種で均一ではなく、他種と空間的に混在する植物においてより大きくなる可能性を提起する。従来、動物の定花性は、異なる花の見た目や採餌方法の記憶を呼び出す際の時間的損失(認知コスト)を最小化するための次善の戦略と理解されてきた。しかし、定花性は認知コスト削減の利益をもたらす一方で、異なる植物種が混在する環境では、近くの他種を通り過ぎるための余分な飛行コストを増やしてしまう。このため、動物は、認知コストと飛行コストのバランスに応じて、定花性を最適なレベルに調整しているかもしれない。この考えを検証するために、クロマルハナバチと等しい報酬を含む2種の人工花を用いた室内実験を行った。その結果、2種の混在度が高い条件ほど、ハチは飛行コストを抑えるために定花性を低下させた。さらに、この傾向は種間で花色が似ている場合(=認知コストが小さい)に顕著であった。これらの結果は、定花性が認知コストによって受動的に決まるのではなく、環境に応じて能動的かつダイナミックに調整される戦略であることを強く示唆する。さらに、この発見は、他種と異なる花色をもつことが有利になるのは、他種と空間的に混在する植物である、という興味深い示唆を含んでいる。


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