| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S02-5  (Presentation in Symposium)

宿主植物個体群の不均一な空間分布が引き起こす植食者の空間的凝集【B】【O】
Spatial heterogeneity of host plant populations induces the aggregation of herbivores.【B】【O】

*大崎晴菜(東京都立大学), 山尾僚(京都大学), 立木佑弥(東京都立大学)
*Haruna OHSAKI(Tokyo Metropolitan Univ.), Akira YAMAWO(Kyoto Univ.), Yuuya TACHIKI(Tokyo Metropolitan Univ.)

 植物の分布における空間的不均一性は、近隣植物との相互作用の強度や範囲を変化させる。その結果、植物の代謝は変化し、植物の化学組成に個体間のバリエーションが生じる。植物の空間構造が化学的にも不均一になると、化学的情報を手がかりに宿主探査を行う植食者の採餌行動にも影響を与える可能性がある。
 エゾノギシギシは、同種他個体との相互作用によりフェノール類を合成する特性がある。本種のスペシャリスト植食者であるコガタルリハムシはこのフェノール類を選好し、結果的に密集したギシギシに惹きつけられることが知られている。密集するギシギシは食い尽くされる一方、単独で生育するギシギシはほとんど利用されない。ギシギシ個体群全体を効率よく利用できないにもかかわらず、なぜフェノール選好性は維持されるのだろうか?本研究ではギシギシの空間的不均一性に着目し、ハムシのフェノール選好性と空間分布に与える影響を数理モデルによって検証した。
 モデルでは宿主と非宿主からなる植物群集を構築し、宿主個体間の距離依存的なフェノール合成を定義した。ハムシは植物のサイズとフェノール濃度に基づいて確率的に資源を選択し、消費型競争の結果、獲得した資源に応じて産子数が決定するものとした。
 進化シミュレーションの結果、ホスト探査効率と資源競争の強度のバランスによって進化的に安定な選好性(ESS)が決定された。ESSは個体群サイズを最大化する選好性よりも常に強く、フェノール濃度が高い宿主株への凝集をもたらした。また、植物群集における非宿主の頻度の増加は宿主探査を難しくすることで選好性をさらに強化した。一方、宿主の空間的不均一性は特定の宿主への凝集と資源競争の激化を介して化学的選好性を弱める要因となった。これらの結果は、宿主植物の分布の空間的不均一性が化学的にも不均一な空間を形成することで植食者の進化や分布パタンにまで波及することを示唆している。


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