| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S03-4 (Presentation in Symposium)
地球温暖化対策は喫緊の課題とされる中,土壌の炭素蓄積効果が世界的に注目されている.日本の国土面積の約30%を占める黒ボク土は,世界の土壌の中で特に土壌炭素蓄積量が多い土壌型である.黒ボク土の生成には,主な母材が火山灰であることと,ススキなどの草本植生由来の有機物供給が必要であると考えられている(山根,1973).一方で,生活様式など含めた人間の経済活動の変化に伴い,草原の需要が低下し,草原の森林化や,森林の再草原化といった土地利用変化が人為的に行われている(井上,2021).しかしながら,草原の土地利用変化が土壌炭素蓄積量に与える影響についての知見は少ない.本研究では,土壌炭素蓄積量が草原と森林のどちらで多いのか,また草原の継続期間によってどう変わるかを検証した.
長野県菅平高原・峰の原高原のスキー場周辺で,300年以上続く古草原,そこが植林または管理放棄されて約50年経過した森林,森林が再草原化されて約50年経過した新草原の3植生・各2地点で土壌断面調査を行い,土壌試料を採取し,従来からの評価方法に準じた土壌炭素蓄積量と粗大有機物を含めた炭素蓄積量を評価した.また,地点の反復を増やすために各植生の多地点で深さ30cmの土壌コアを抜き,同様の評価を行って補完した.
その結果,土壌深度毎の積算土壌炭素蓄積量は,古草原,新草原,森林の順に多い傾向が認められたことから,森林化によって炭素供給量が減少または,炭素分解量が増加すると考えられた.また,粗大有機物を含めた積算土壌炭素蓄積量についても同様に古草原,新草原,森林の順に多い傾向が認められたことから,森林を再草原化すると土壌炭素蓄積量は増加するが,草原を維持し続けた場合と比べて少ないことが明らかになった.以上のことから,歴史の古い草原が植林等によって森林化することは,土壌炭素を考慮すると脱炭素に逆行する恐れがあることが示された.