| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S03-5 (Presentation in Symposium)
自然攪乱の抑制や人為管理の減少などで、世界的に草原が急速に減っている。日本では100年で90%以上の草原が減少しており、これほどの減少はおそらく第四紀以降初めてだと考えられる。歴史の古い草原は生物多様性が豊かだという研究が相次いでおり、草原減少が生物多様性に与える影響が懸念される。一方、草原減少による生態系機能への影響は研究が少ない。歴史の古い草原は根系が大きい植物種の割合が多いと報告されており、斜面崩壊防止機能が高い可能性がある。森林と草原のどちらで斜面崩壊防止機能が高いのか先行研究によって結果が異なるが、歴史の古い草原と新しい草原を区別した研究はほとんどない。 そこで本研究では、歴史の古い草原は新しい草原や森林よりも根系量が多いのか、同一地域の植生間比較によって検証した。
長野県の菅平高原・峰の原高原のスキー場周辺で、300年以上継続する古草原、林齢40~90 年の森林、森林が草原化して50~70年経つ新草原の3植生・各8地点で調査した。2023年7~11月 に各地点で、直径5~8 cm・深さ最大30 cmの土壌コア試料を5~6本採取した(計139 コア)。採取した試料を深さ5 cmごとに切り出し根系の乾重量を計測した。
土壌深10 cmまでの根系量は新草原>古草原>森林だった。しかし 、土壌が深くなるにつれ新草原の根系量は急速に減り、深層では森林と古草原の方が根系量が多かった。古草原は浅層以外の根系量も多く、森林のような根返り倒木の 問題もないため、斜面崩壊防止機能が高い可能性がある 。草原の中でも遷移の進行によって、地下への資源配分が大きいK淘汰種が増えることで古草原の根系量が多くなると考えられる。現在、 草原への植林を進める運動が国内外に存在しているが、古草原を森林化させることは生物多様性のみならず生態系サービスを低下させる可能性があることを問題提起したい。