| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
シンポジウム S03-7 (Presentation in Symposium)
現在、維持管理の放棄による二次的自然(農地、人工林、ため池、草原など)の急速な減少が問題視されている。二次的自然の中でも国内外で特に急速に消失しているのが草原である。伝統的に人の手により維持・管理されてきた草原(半自然草原)は、高い生物多様性が生育する環境であることが知られている。草原、特に歴史の古い草原には絶滅危惧植物種が高密度に分布しているため、草原減少によってこれらの植物が消失すれば、植物に共生する微生物もまた失われる。それらに共生する微生物も同様の状況にある。
一方で、天然物創薬分野において青カビからペニシリンが発見されて以降、微生物由来の天然化合物探索は急速に進み、多くの微生物から医薬品等の有用化合物が発見されてきた。その多くは土壌由来微生物から発見されており、植物内生菌類についても多くの報告例があるが、ほとんどが個々の植物共生真菌についての研究例であり、一地域の広範囲にわたる大規模な草原植物の共生微生物叢調査および、それらの創薬ポテンシャル調査例は乏しい現状である。
本研究では、菅平高原内の20地域(古草原、新草原、森林、ため池、山城)で植物採集を行い、任意に選んだ植物43種・76個体から真菌と放線菌を分離した。分離した微生物の中から真菌380株、放線菌130株について独自に開発した4種の生産培地(真菌用2種、放線菌用2種)で発酵生産を行なった。これらの培養液を用いて、グラム陽性菌・グラム陰性菌・真菌計6種に対する抗菌活性評価および、ヒト大腸癌細胞(DLD-1)とマウス線維芽細胞(NIH-3T3)を用いたMTT細胞増殖アッセイによる抗癌活性評価を行った。
6種の検定微生物に対する抗菌活性評価を植生間で比較した結果、歴史の古い草原に由来する微生物の方が新しい草原に由来する微生物に比べ、抗菌活性・抗癌活性ともに高い傾向にあった。