| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


シンポジウム S04-4  (Presentation in Symposium)

日本の里地里山の生物多様性の危機【O】
The biodiversity crisis in Japanese Satoyama regions【O】

*石井実(大阪府立環境総研), 藤田卓(日本自然保護協会), 福田真由子(日本自然保護協会), 小林彩(日本自然保護協会), 赤坂宗光(東京農工大学), 内田圭(東京都市大学), 片山直樹(農研機構), 曽我昌史(東京大学), 深谷肇一(国立環境研究所), 久野真純(広島大学), 柗島野枝(国立環境研究所)
*Minoru ISHII(Res. Inst. Env., Osaka Pref.), Taku FUJITA(NACS-J), Mayuko FUKUDA(NACS-J), Aya KOBAYASHI(NACS-J), Munemitsu AKASAKA(Tokyo Univ. Agri & Tech.), Kei UCHIDA(Tokyo City University), Naoki KATAYAMA(NARO), Masashi SOGA(Tokyo University), Keiichi FUKAYA(NIES), Masumi HISANO(Hiroshima University), Noe MATSUSHIMA(NIES)

 モニタリングサイト1000里地調査(以下、里地調査)では、2005~2022年の18年間に全国325か所の里地里山で5700人以上の市民調査員により植物相、鳥類、哺乳類、カエル類、チョウ類、ホタル類の生息状況など9項目について行われ、約298万件のデータが蓄積された。この調査では、4,382種の動植物が記録されたが、その中には環境省のレッドリスト掲載種(以下、レッド種)338種が含まれていた。
 さらに、この調査では在来種で、かつ出現頻度の高い鳥類107種の15%(16種)、チョウ類103種の33%(34種)が年平均3.5%以上の高率で減少していることが示された。またテンやノウサギ、ヘイケボタルなどの減少傾向も明らかになった。減少率の高い鳥類は、オオタカ以外は非レッド種であり、セグロセキレイやアオサギ、ホトトギス、スズメなどの身近な野鳥が含まれていた。チョウ類についても、ギフチョウやオオムラサキなど6種のレッド種を除けば、減少率の高い種の多くは、ゴマダラチョウやイチモンジセセリ、ヒメジャノメ、アカタテハなど里地里山の普通種だった。
 里地調査の各サイトは比較的良好な里地里山だが、この調査で行ったアンケートでは、大部分のサイトから管理不足の二次林や人工林、水田、草地、ため池があると回答があった。その一方で、半数以上のサイトでさまざまな保全活動が実施されていた。またこの調査では、ムラサキツバメなどの南方系のチョウ類やアライグマ、ガビチョウ類、ソウシチョウなどの外来種の分布拡大、ニホンジカやイノシシなどの哺乳類の増加傾向も明らかにされた。とくにニホンジカの過剰採食による里山林の植生への影響が2割以上のサイトで確認されている。
 以上のように、18年間の調査結果により、全国の調査サイトでは市民による活発な保全活動が実施されているにも関わらず、里地里山の荒廃の進行と生物多様性の損失は止まっていないことが明らかになった。


日本生態学会